ウチそと研通信168 ーいとうづの森へー

北九州市戸畑区、八幡西区、小倉北区にまたがるエリアに、金比羅山という標高125メートルの山を中心とした大きな自然公園「福岡県営中央公園」があり、「到津の森公園」はその一角に位置する。

現在は市営の同園、その前身は“到津遊園”。1932(昭和7)年、九州電気軌道株式会社(現・西鉄)により、北九州沿線市民の憩いの場、とくに子どもたちの教養とレクリエーションのためのセンターをめざしオープンし、ライオン、トラ、ヒョウなどを揃えた動物園が翌33年に設置され、到津遊園の目玉となった。以来、戦争期の休止をはさみ長く営業を続けてきた同園は、20世紀末になって経営不振のため、いったんその歴史に幕を下ろすのだが、閉園を惜しむ多くの人々の声が寄せられ、2002年に市の所管のもと再出発し、今日へ至っている。(興味そそるこの間のドラマは、中公新書『戦う動物園―旭山動物園到津の森公園の物語』小菅正夫、岩野俊郎著に詳しい。)

2015年秋、当地を初めて訪ねてみようと思い立ったのは、一群の古いガラス乾板ネガに写った“いとうづの森”を見たためである。新聞記者Tさんがやって来て見せてくれた50枚ほどのキャビネ判ネガ、それらは到津の森公園の園長室に残されていたもので、創設後まもない1930年代の園内で撮られたショットが大部分を占めるのは推測できたが、撮影者は不明。あちこちに損傷やカビの目だつ、危うい状態にあるネガだった。

ルーペでたどりすすむ細部につぎつぎ惹き寄せられ、目を瞠った。うごめく顔、顔、顔。熱気を帯びたまなざしの交叉。森の中で渦をなす群衆。とるものもとりあえず、この森へ行ってみなければ―。古いネガに写り込んだ光景にさそわれ、いとうづの森を歩きまわった報告を以下に。(「古いネガから」‐1)