大日方欣一
最近では11月3日頃に催されることが吉例の八幡起業祭は、官営八幡製鐵所の創業を記念し20世紀初めより、もとは11月18日を中心に前後3日間、地区をあげて盛大に催されてきたという。まさにそのシーズンに、母娘とおぼしきキツネ襟巻の婦人、白い帽子の少女は…
現在の到津の森公園にバス停側の南ゲートから入場してすぐ、起伏に富んだ地形の公園内でもっとも低地にあたるところに“姿見の池”がある。それと同じ地点だろうか。乾板の中に2枚、クロマツの疎林に囲まれたアシカ池の光景を見つけた。ウェブサイト「福岡県…
北九州市の戸畑区、八幡西区、小倉北区にまたがるエリアに、金比羅山という標高125メートルの山を中心とした大きな自然公園「福岡県営中央公園」があり、「到津の森公園」はその一角に位置する。現在は市営の同園、その前身は“到津遊園”。1932(昭和7)年、…
関口正夫は、1946年、東京田端に生れた。桑沢デザイン研究所写真研究科に学び、卒業後、同級の牛腸茂雄と写真集『日々』を刊行する。するどい刃物の切れ味をおもわせるスナップショットで1960年代後半の社会的風景をつづる『日々』の関口のパートでは、沈着…
最近、榎倉康二の視線をふと感じたのは、イギリスの写真家フランシス・カーニーの作品〈Five People Thinking the Same Thing〉(1998)を見返している時のことだった。双方の写真作品のあいだを繋ぐなにかを感じた、というべきか。カーニーの5枚組の写真で…
本書(大隅書店刊)の巻頭に収められた〈分水嶺 The River〉は、阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件が相次いだ1995年、都市のカタストロフをまざまざと見せつける二つの出来事に挟まれた2月後半の期間に、銀座ニコンサロンの個展で当初発表されたシリーズだっ…
5月6日の前回ブログで大濠公園のベンチを離れ地下鉄に乗って以来、どこをどう辿ったかはメモに残してあるが煩わしいので省くとして、つい今しがた起床、写真同人誌九州『九州三県境』を久しぶりに手に取った。窓をあけ6月の朝の外気を部屋へ入れつつ、あら…
「彼岸も終わり何とも心地良い秋を、光を全身に浴びながら各メンバー一斉に『九州三県境』を目指した」と、あとがきに記された写真同人誌九州2号を眺めていて、気づくといつのまにか初夏めいてきた。木漏れ陽のもと(大濠公園なう)、ページをめくり意識があ…
九州に移って二週間ほどが経過、福岡市内の地下鉄路線はほぼ一巡してみたが、バスを乗りこなすまでにはまだ時間がかかりそうだ。久々の一人暮らし、鯖または鶏の料理を求めつい食費がかさみがちで、そろそろ軌道修正を心がけなくてはいけない。駅や地下街な…
20年ちかく非常勤で通っている多摩美術大学(上野毛)造形表現学部が、大学の学科構成の改編により、まもなく消失する。今年も木曜夜に同学部映像演劇学科、土曜夕方には共通教育科目の講義、計2コマを担当しているが、昨年までいた“一年生”の存在はもはや…
前回の「異色の写真家列伝」(四谷ひろばで年2回おこなっている講座)で、長船恒利さんのことを取りあげた折に、しめくくりのやりとりの中で飯田鉄さんから、長船さんと北代省三さんの写真はどこか近しいところがある、というコメントが飛び出し、意表をつ…
お知らせです!よろしくお願い致します。 写真の内側外側研究会 課外講座 異色の写真家列伝 第8回 長船恒利〈在るもの〉をめぐって2013年8月24日(土) 午後6時20分〜8時40分場所 四谷ひろば http://yotsuya-hiroba.jp/ 参加費(資料代) 500円予約・問い…
写真の内側外側研究会 課外講座異色の写真家列伝 第7回アーウィン・ブルーメンフェルト 〜写真集“MY ONE HUNDRED BEST PHOTOS”を手がかりに〜 日時:2月23日(土) 午後6時20分−8時40分 場所:四谷ひろば 講師:大日方欣一 (フォトアーキビスト、写真の内…
前回、短い行を引用する目的で久しぶりに中井久夫氏のエッセイ集『徴候・記憶・外傷』(みすず書房)を探し、その頁を開いた。僕はこの本をまだ読み終えていないと思う。気になるところを読みかじる程度の読み方しかしてこなかったのだが、気になるのはたと…
先月23日に会期を終えた大辻清司フォトアーカイブ展について、会期中からさまざまな反響の声に接することができた。FFLLAATTというウェブサイトで連載されている大嶋浩さんから長文の批評をいただいたことをきっかけに、大辻展開催中の6月18日、美術館ホ…
大辻清司フォトアーカイブ展の会場では、作品の撤収、仮設壁をとり壊す作業もひととおり完了した。展示第三部のむすび近くに配した、大辻作品「そして家はなくなった」を反復したような気分が残る。からっぽに戻った空間はこうもカッコいいものか、と、見と…
展覧会(大辻清司フォトアーカイブ展@ムサビ)は、終わった。誰もいなくなった会場で、ガイドを続けよう。第三部「建築と環境」では、都市インフラストラクチャー系の写真に挟みこむかたちで、1960年代末から70年代初めの3つのアート・イヴェントを撮った…
大辻清司フォトアーカイブ展@ムサビの会期は、あと3日を残すばかりだ。土曜23日が最終日。1960年代以降の後期大辻を扱う第三部「建築と環境」のガイドを続けたいのだけれど、このパートのタイトルは多少の無理を承知で、「見えない都市」としてもよ…
前回紹介した浪曲の玉川奈々福さんが、一昨日、「大辻清司フォトアーカイブ展」を観に来てくださった! 武智鉄二演出「きりしとほろ上人伝」の舞台写真に写っている浪曲師が木村若衛さんであることを教えていただけたばかりか、他の作品についてのご質問もた…
大辻清司フォトアーカイブ展のガイドをしている途中だった。第二部「表現の現場から」に並べたプリント、後になって気づいたのだが、ハリガネ系の男性アーティストの写真を中心に選んでいる。剣持勇、毛利武士郎、石元泰博、芥川比呂志、三島由紀夫(ボディ…
大辻清司フォトアーカイブ展ガイドを続けよう。プロジェクションによる実験工房(バレエ実験劇場、及び「月に憑かれたピエロ」)のパートを構成していく過程であらため感じたのは、大辻さんが動体視力にすぐれた写真家だったこと。静かなるまなざしの人、と…
武蔵野美術大学の美術館で開催中の「大辻清司フォトアーカイブ展」が、会期最終週(〜6月23日最終日)に入ろうとしている。もうご覧になりましたか?この展示の準備をいつから始めたのか、といえば大辻さんの仕事場に月1回のペースで調査に通いだした十六七…
http://bit.ly/wVltFc 山口勝弘氏は、佐谷画廊の北代省三展(1994年)図録の中でこう述べている。 「…僕が思うに北代省三という人間も、その人の生き方も、その作品もすべてあらゆる角度からみて『現代美術』とはほとんど無縁の地点に立っているのである。こ…
ロバート・フランク《ホテルの窓からの眺め−モンタナ州ビュート》1954-55、ジョン・ゴセジ《ロマンス・インダストリー#175》1998、ディーター・アッペルト《吐息で曇った鏡》1977、ウォーカー・エヴァンズ《フランク・トングの家で撮ったスナップショット》…
若い(干支でちょうど一回り、僕より若いのでそう言っておきますが)写真家の小平雅尋さんが、写真集『ローレンツ氏の蝶』を作りました。写真出版の自主レーベル「シンメトリー」を設立して、そこからの出版です。プレスリリース用の案内に、彼を紹介する文…
スティーヴン・ショアー著『写真の本質』(PAIDON)は、なにぶん言葉が少ないこともあるし、熟読しようにもしにくい、斜め読みをくり返すほかないような性質の本である。ショアーが仮設する枠組み(物理的レヴェル、描写レヴェル、メンタル・レヴェル)にそ…
時の流れが早瀬になったかのよう、12月に入るといつもそう感じてしまう。来年も数コマ、幾つかの学校で授業を担当する予定があり、そろそろ、その内容の目次立てを考えて提出しなければならない時期になった。「写真史」を語ることになっている一つのコマで…
「バラは赤、スミレは青」。アメリカ南北戦争、そこは北軍の野営地だった。騎兵隊の士官ら五、六名がつどい記念写真を撮ることになる場面で、レンズの蓋を開閉する写真家はマザーグースのこの文句を口ずさんだ。「ハトが出ますよ」、「はい、チーズ」に類す…
大辻清司の最初期の作品には、金属や有機物などの様々な素材を組み合わせ、密室的状況の中で撮影したオブジェの写真が多かった。そもそも大辻が写真の魅力に強く惹かれだすのは中学生の頃、偶々古書店で見つけた写真雑誌『フォトタイムス』のおもに1930年代…
今年のうちにメモしておきたいのは、松濤美術館で見た野島康三展「肖像の核心」のことだ。いわずと知れた日本近代写真の大先達である野島の写真を久しぶりに眺め、今まで思っていたとは別様の感想が湧いてきた。まず、展示の最初のほうに並ぶ大正期の男たち…