ウチそと研通信169 −アシカ池ー

現在の到津の森公園にバス停側の南ゲートから入場してすぐ、起伏に富んだ地形の公園内でもっとも低地にあたるところに“姿見の池”がある。それと同じ地点だろうか。乾板の中に2枚、クロマツの疎林に囲まれたアシカ池の光景を見つけた。

ウェブサイト「福岡県の希少野生動物」(福岡県自然環境課)によれば、アシカは“以前、中国地方の日本海沿岸や北九州沿岸および離島に回遊し、生け捕りされたものはサーカスで曲芸をしていたという。しかし、最近数十年間生息情報はない”とのこと。到津の地に湊があったという遠い昔なら、潮にのって回遊し、野生アシカがこのあたりまでやって来ることがあったかもしれない。

2枚のアシカ池はたぶん違う季節に撮られている。日傘をさす女たちがちらほら見える1枚に較べ、休み台の上のアシカをフレーム右端に入れ、見物客たちを真ん中に写した1枚では、コート姿や襟巻が目にとまり、空気がより冷たく感じられるだろう。(「三井田川禁酒会」という文字の入った襷がけの青年も気になる。)とくに後者のショットにうかがえる撮影者のねらいは、この池のアシカのもつ芸能者的性格をくっきり浮かび上がらせることにあったのではないか。“曲芸”こそしなかったとしても、ここには舞台(アシカの乗る休み台)と観客のあいだの円形劇場的な構図があり、まなざしとパフォーマンスのやりとりが見事に掴まえられている。

この1枚の中につどう登場人物たちの中で、動きによる被写体ブレを大きく起こしている一人、画面真ん中より少し上のところに陣どった白の割烹着姿のおばさんは、アシカの相棒、芸能上の相方的存在ではないだろうか。 眼鏡をかけているらしい小柄だが堂々とした印象のおばさんは、柵の前の釈台のようにもみえる小机に並べたヒカリモノの魚だろうか、その何かしらを相棒にむけスローしている。 見物人たちの興味はどうやらアシカとおばさんの掛け合いに集まっている。おばさんはリズムをつけ、絵解き語りでもするように口上を発声しているのではないか?

この日は、11月後半と思われる。割烹着のおばさんの傍ら、向かって左隣に立つキツネの襟巻をつけた和装の奥さまと、E.スタイケン撮るところのリー・ミラーが被るみたいな白いハットの少女は、これとは別のネガに中にも同じ日の装いで佇んでいて、到津遊園正門前で撮られたそのショットに、「祝 八幡製鐵所起業祭」と大書した看板が掲げられていた。(「古いネガから」‐2)