ウチそと研通信160―久しぶりに草森紳一を読むー

『本の読み方』-墓場の書斎に閉じこもる-という本を読んで面白かった。著者は草森紳一草森紳一は10年前に亡くなっているが、1994年から1996年まで雑誌に連載されたものが没後にまとめられて刊行されている。成立の経緯はわからない。内容はタイトル通り、本の読み方のいろいろを書き綴ったエッセー集である。あっという間に読み通したが、本というものとのつきあい方をあらためて教えてくれる楽しい本だ。副題の-墓場の書斎に閉じこもる-は毛沢東が若い頃、親の眼を盗んで墓場に隠れて読書に耽ったことについて触れているところからつけられたようだ。毛沢東は読書家であったようである。草森紳一については以前このブログでも書いているが、それ以来久しぶりに草森のページを開くことになった。本の冒頭には「ウグイスの死」と題する寺田寅彦の本の読み方に関する考察が置かれている。何気なしに寺田寅彦の本を開いてみると、・・・右のような出だしの随筆に出っくわしたのである。・・・と草森は書き記す。このー出っくわすーという彼の言葉に出会ったとき、草森の面白さは、何かに出っくわしたときの草森の心の開き方が、こちらの心を動かすのではないかと思いついた。出っくわすという彼の言葉に引きずられて、遅まきだが「散歩で三歩」をまた読んでみると、コンパクトカメラで撮られた彼が出っくわした写真の見え方がもっと身に迫ってくるように感じる。草森紳一のコンパクトカメラによる(ネガカラーフィルムでの撮影だ。)写真群はなかなか説明しにくいものなのだが、『本の読み方』に収められている本を読む人たちのスナップ、あるいは本のある場所などの写真のあり方はなんとも不思議でいろいろな思いを誘う。これらのなんとも言いがたい彼の写真にしばらくとりつかれそうだ。草森紳一には『写真のど真ん中』という丁寧な写真に関する評論集が同じ河出書房新社から出されている。またいくつか草森紳一の本を読み直してみると、考えと言葉の繰り出し方が具体的で、赤瀬川源平に似ているところがあるようにもふと考えた。

今回は備忘録をもう一つ。1月半ばに四谷3丁目のギャラリー・ヨクトで吉村朗のカラー写真が展示された。『THE ROUTE釜山1993』というタイトルで山崎弘義さんの企画である。韓国と一部に中国での撮影が混じるが、それまでの吉村の写真にみられる街の中を走り抜けるような街頭スナップに、飾り窓の映り込みやグラフティに視線がとどまる写真が混じり、次の吉村のモノクロのシリーズの予感をさせるのはこちらの思い込みなのだろうか。吉村の作業の軌跡は折に触れて何かを思い出させる。