ウチそと研通信19 −ハコモノ好き−

繰り返しになってしまうが博物館や美術館が好きでよく見に行く。旅先でもできるだけ博物館や美術館を見ている。小さな施設でもその土地ならではの特徴があり、いろいろと発見があって面白い。どちらかといえば美術館より博物館、資料館の方が好きかもしれない。もちろん東京でも見に行くが、話題の展覧会はいつも満員、長い間待たされた上に作品をじっくりと鑑賞することがむずかしく、大規模な展覧会ほど自然と足が遠のいてしまう。
この数年、各地の博物館や美術館で指定管理者制度という言葉がよく聞かれるようになった。いわゆるハコモノ行政への批判の高まりから、各地の博物館や美術館などの運営を民間組織に委託するものである。もともと日本の文化施設は人が足りないのが当たり前で、ぎりぎりの状態で維持されているのだから、民間に委託されれば効率化の名の下に本来の機能を果たすことは難しくなるだろう。
そして今は「未曾有」の経済危機。かつてバブルの頃に盛んであった企業メセナが衰退したことを考えれば、指定管理者制度による文化施設の未来が決して明るいものではないことは容易に想像がつく。さらに大きな環境の変化として、わが国は、はじまって以来の人口減少時代を迎えた。人口が減少するということは、前の世代より後の世代が少なくなるということで、今あるものすべてを未来に受け渡すことができないことを意味する。ということは、何を次の世代に残すべきか選択しなくてはならない。これを「見えざる手」に任せてしまってよいものか。
昔のように権力者の気まぐれや金持ちの趣味でもなく、流行りすたりの多数決や偶然でもなく、しかるべき人の手で、誰もが見える形で次の世代へ文化を引き継いでゆくシステムとして博物館や美術館は、これまで人間が発明したものの中でもかなり出来のよいものだと私は考えている。もちろん今あるすべての施設が本当に必要なものか見直すことは必要である。
現時点で、これを維持できるのは(一部の民営施設を除いて)国や自治体しかなく、誰にも開かれたものとして考えるなら、やはり税金を使うことは止むを得ないことだと思う。しかし国立を名乗りながら収蔵作品を持たない美術館ができたり、自治体が建てた施設はすべて無駄であるかのような乱暴な言動を自治体の首長がすることを考えると、文化を保存、維持する新たなシステムについて検討しなければならない時期が来ているのかもしれない。