大山裕

ウチそと研通信163 ー上海の博物館などー

少し前のことになるが、5月の連休明けに上海を訪れる機会があった。3泊という短い期間であったが新しめの博物館二つを見ることができた。 一つめは「上海自然博物館」で、もともとは外灘の近くに1956年開館したものだが、2015年に上海市内の中心近くの静安…

ウチそと研通信158 ―時間の積層―

少し前になるが、小田原にある「生命の星・地球博物館」の企画展、『地球を「はぎ取る」』展(地層が伝える大地の記憶)を観た。地層をはぎ取り、型どり、切り取ったさまざまな種類の大型の地層標本で構成された特別展で、地球上で起こったさまざまな出来事…

ウチそと研通信152−寺山修司記念館−

飛行機が着陸した衝撃で目が覚めた。窓からF‐15が2、3機とまっているのが見えた。 三沢にある寺山修司記念館は開館してもうすぐ20年になるが、以前から気になっていた施設で、今回はじめて訪れることができた。 他の作家のいわゆる文学館とは趣が異なり…

ウチそと研通信150 −東京南部−

大田区、港区、品川区の3区が「東京南部」と呼ばれていることを最近知った。京浜工業地帯の東京側にあたるが、西東京で育った私には耳慣れない呼び方であった。昨年から仕事やらプライベートやらで、この南部を訪れる機会が増え、東京を南北に行ったり来たり…

ウチそと研通信146 −俯瞰の誘惑−

パノラマ写真に興味を持ち撮影を始めてそろそろ9年になる。今ではスマホにもパノラマ撮影機能がついているし、ネットで検索すればたくさんパノラマのイメージが出てくるようになった。 パノラマ画像の起源については詳しくないが、洛中洛外図や名所図会、仏…

ウチそと研通信143 −タテ位置の街−

京都に寄る機会があり、前から見たいと思っていた木村伊兵衛のカラー写真、京都駅でやっている「木村伊兵衛 パリ残像」を観た。 シャツやスカート、自動車やネオンの赤を中心に、タテ位置でまとめられた展示はリズム感があり、作者の楽しい気分が伝わってく…

ウチそと研通信138−地中の寶(たから)−

「まち歩き」という言葉が一般に聞かれるようになりましたが、テレビや雑誌などでは食べ歩きや買い物が中心で、その土地の歴史や文化、成り立ちについて触れる記事や番組は少ないようです。 地方の博物館などで入口近くのコーナーにはよく、地形模型や航空写…

ウチそと研通信135 −人間博物館−

この夏、妻の故郷である名古屋への帰省にあわせて、名古屋周辺の博物館をいくつか観て回った。その中で、名古屋へ何度も行きながら一度も観ていなかったのがリトルワールドであった。正式な名称は「野外民族博物館リトルワールド」であるが、入口には「人間…

ウチそと研通信130−アーサー・トレス−

以前から気になっていた写真家の写真集を購入した。アーサー・トレス(Arthur Tress)の『THEATER OF THE MIND』。アーサー・トレスを知ったのは、10年ほど前、まだ映像の専門学校に通っていた時だった。その時の講師が飯田さんで、いろいろな写真家の写真集…

ウチそと研通信121 −拍動的−

先日、畠山記念館の『煙寺晩鐘図』(えんじばんしょうず http://www.ebara.co.jp/csr/hatakeyama/colle001.html)を見た。この絵を知ったのは三木成夫の『海・呼吸・古代形象』の中で取り上げられていたからだが、それ以来、ずっと見たいと思い、公開される…

ウチそと研通信119 −キツネと自然観−

『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』(内山節/講談社現代新書)を読む。 キツネと言えば10数年前、出張で出かけた北海道の車窓からキタキツネを見た。野生のキツネを見たのはその1回だけだ。また、自分とキツネとの関係でいえば、一昨年に死ん…

ウチそと研通信115 −ハコのない博物館−

手元に正確な数値があるわけではないが、「美術館に行く」ということは、一般的に「企画展」あるいは「特別展」を観に行くということが多いだろう。博物館の場合は、常設展も観られるだろうが、科博の「深海展」のようにより多くの人を集めるのはやはり特別…

ウチそと研通信112 −箱の中の箱の中の箱−

八王子市夢美術館特別展「ムットーニワールド からくりシアター Ⅲ」を観てきました。(会期:2013年9月13日(金)〜11月24日(日)) かって世田谷で観たからくり人形たちは箱の中におさまっていたが(http://d.hatena.ne.jp/uchi-soto/20081030/1225362677…

ウチそと研通信106 −曖昧な人体像 その1−

この数年、病院に通うことが多くなった。スポーツや舞踊など身体を動かすことを日常としている人は別として、一般の人間が自分の身体について意識するのは病気や怪我など体調を崩した時だろう。 医師から患者にされる病状や治療についてのインフォームド・コ…

ウチそと研通信103 −ミュージアムと時間 その3−

七夕やパンダの話題からだいぶ遅れてしまったが、植物のササの話である。少し前のことになるが、ある講演会でササの生態について話を聞く機会があった。 (http://www.akita-pu.ac.jp/stic/souran/study/detail.php?id=75) ササは低い山などの下生えとして…

ウチそと研通信91 −ミュージアムと時間 その2−

前回は、国立歴史民俗博物館の「風景の記録 − 写真資料を考える −」展について触れた。 博物館ではないが写真の活用例として最近目にした記事に、横浜市立図書館の「丘のヨコハマ写真館」(http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/library/localinfo/hokubu/…

ウチそと研通信84 −ミュージアムと時間 その1−

昨年暮れ、国立歴史民俗博物館の「風景の記録 − 写真資料を考える −」展を観に行った。この博物館の企画展は面白いものが多い。今回も見ごたえのあるものだった。 「風景や歴史や文化が人びとのくらしのよりどころになっている」 「人々は風景のなかでくらし…

ウチそと研通信81 −水平垂直の世界−

四角形がいつ発明されたのかについて、以前、少々触れたことがあった(ウチそと研通信52−フレームのウチそと5−)。赤瀬川原平氏の『四角形の歴史』(毎日新聞社)によれば、地面の上に何かモノを並べたときの列の重なりが四角形を生んだのではないかと推測…

ウチそと研通信80 −曖昧さの固定−

マンションの折り込み広告だとか、雑誌に載っている新しいショップの完成イメージ、完成予想図。それから、化粧品や洗剤、薬品などのテレビコマーシャルによくある、人体の各部の断面のイメージ。たとえ想像図や模式図であるという注意書きがあったとしても…

ウチそと研通信76 ― 記憶と保存 ―

過去の出来事とまったく同じことが将来に繰り返されることはないのですが、日常のたいていの出来事は「また今度、会いましょう」的に、すぐにまた出会えるような気持でいて安心していました。が、今となってはどんな些細な出来事も一度きりのもので二度目は…

ウチそと研通信73 −夢こそ現実であれば−

昨年暮れ、仕事で掛川を訪れた際に、資生堂アートハウス「駒井哲郎作品展・黒と白の旋律」を観る機会があった。版画では長谷川潔の詩的な雰囲気が好きだったが、こちらはまた違った味わいで、すっかり魅了されてしまった。小さなフレームの中の微妙な陰影、…

ウチそと研通信69  − エコロ死ー −

宮崎学写真集「死」(Death in Nature)を買う。 神田古本まつりで「宮崎学」の文字が気になり手にとると、出版社の屋台のお姉さんに「いい写真集ですよ」とすすめられた。 中学生のころ「アニマ」誌上で見た真っ黒な闇を背景に浮かび上がるカモシカの写真に…

ウチそと研通信67 −美術館はどこへゆく−

『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』(HET NIEUWE RIJIKSMUSEUM)をみる。以前、仕事でオランダを訪れた際、30分ほどの空き時間があり、レンブラントの「夜警」だけをあわてて見て出てきたことがある。同美術館はオランダの重要な文化遺産で、最大の…

ウチそと研通信65 −像と物−

町田市民文学館「紙芝居がやってきた」展(4/24〜7/4)を見た。 「黄金バット」や「鞍馬天狗」などの初期のものから、戦後、幼稚園などで普及した童話を原作とした紙芝居まで、その流れを一望することできて面白かった。紙芝居は飴や駄菓子を売って見せる「…

ウチそと研通信62 −記憶のすき間−

祖母の名前は「かつ」という。日露戦争に勝ったので「かつ」とつけたのだと、私が子供のころ父から聞いた。ところが先日、ふと思いついて調べてみると祖母が死んだのは1985年、90歳のときだった。とすれば生まれたのは1895年、明治28年の生まれ…

ウチそと研通信59 −ヤギの皮をかぶったイヌ−

日曜日の午後、命をテーマにした二つの展覧会を観る。ひとつは東京大学総合研究博物館の「命の認識」展(同時開催「キュラトリアル・グラフィティ −学術標本の表現」展)。 目の前に整然と並べられた動物たちの骨。解説のない※空間で、はじめはやや戸惑うか…

ウチそと研通信55 −部分と全体−

目黒区美術館、‘文化’資源としての<炭鉱>展(11.04〜12.27)をみる。炭鉱をテーマにした絵画、彫刻、写真、映画…。どの作品もストレートにエネルギーが伝わってきて疲れてしまい、このあと写真美術館をはしごしようと思っていたがやめてしまった。 かつて…

ウチそと研通信52 −フレームのウチそと5−

最近、フレームが気になる。街を撮影するときに、人やモノ、場所の関係をなるべく切り離さないようにとパノラマ写真(※)を撮るようになってからだ。 写真にはいろいろフォーマットがあるが、その角が気になる。写っているものと写さなかったものの境界。写…

ウチそと研通信50 −記憶の箱−

今年が我が国にとって本当に変革の年になるのかわからないが、もっと大きな変革、明治維新があったのは今から140年ほど前のことだ。東京で育った自分は知らなかったのだが、明治期の京都は大変だったらしい。 この夏、京都市学校歴史博物館に行った。廃校…

ウチそと研通信47 −体のウチそと−

骨を美しいと思うようになったのはいつからだろうか。 小学生の頃、死んでしまったカエルを軒下に埋めた。あとで掘り起こして骨格標本にしようと思ったのだ。ところが埋めた場所を間違えたのか、分解されてしまったのかもう骨は見つからなかった。 高校生の…