ウチそと研通信118 −2014年CP+とライカ社ピーター・カルベ氏講演会について−

今年もカメラや映像機器のショー、CP+(プラス)が開催された。初日に会場のパシフィコ横浜まで出掛けてみる。このショーはデジタルスティルカメラを中心にした展示で、興味ある新製品を速く見られることが大きな楽しみだ。今年はもうひとつ、撮影の道具としての単体のカメラが、スマートフォンなどの撮影機能付きの端末に押され、製造台数、売上額ともに減少傾向にあるという状況があり、実際の製品の動きも同時にこの眼で見てみたいという気持ちもあった。
内容的にカメラメーカー各社とも、新製品は昨年後半に前倒しのような形で発表されていたせいか、新規に発表された製品はやや少な目の今年のCP+だ。会場初お目見えの製品では、個人的には大胆なデザインのシグマのDPクアトロシリーズが興味深いカメラだった。コンセプトモデルがそのまま製品化されたような印象で面白い。楽しむ道具としてのカメラの形という点では、成熟したカメラ状況の中でも意外にある程度のユーザーを獲得できるのではないかと想像される。カメラ付き携帯端末の普及で、従来タイプのカメラを使う層が減少してゆくのは間違いないが、撮影という目的の比重が高い場合、撮影専用のカメラの必要性が皆無にはならないだろうことは、あらためて言うまでもないだろう。そのなかでひとつの方向性を見せているように感じるカメラだ。以前にペンタックスから出されたマーク・ニューソンデザインのK-01も同じようにスタイリングの提案が強調されたカメラだったが、今回のシグマはタイミング的にカメラの次の展開にとってより切実感があるのではないだろうか。次世代のカメラのあり方をいささかイメージさせてくれるという点で目立っていると感じた。またシグマDPクアトロはカメラ機能としても携帯端末では到底得られない高度な撮影画像が得られるが、これからの時代に必要とされるカメラがどんなものなのか、まだまだ試行が続けられることだろう。単に携帯端末との差別化だけでカメラの存在を考えてもあまり意味がないようにも思われる。最近のメーカー各社の対症療法的なスペック搭載競争の行く末に何か生まれてくるのか、あるいは今年のCP+のパネルディスカッションのタイトルのように、カメラがカメラでなくなる時がやってくるかもしれない。
翌日、降りしきる雪の中、銀座のライカショップにピーター・カルベ氏の講演を聞きに行った。こちらも楽しい経験だった。カルベ氏はライカ社のレンズ設計のリーダーで、数多くのライカレンズを設計している。講演は質問も含めて2時間近く、充実した内容だ。ライカ判を中心にしたカメラフォーマットの話し、ライカというカメラの着実な変遷、レンズの進歩をきちんと認識させる、一貫して丁寧で説得力のある講演である。なかでもカルベ氏のレンズ評価が興味深かった。ピントの合っていない、いわゆるボケの部分の重要性を強調して被写界深度を上手に使うことがより写真を面白くするという。例として、エリオット・アーウィットの有名な、バックミラーに写る海辺のカップルの写真を挙げていた。アウトフォーカスの部分が写真を立体的にし、豊かにするというような見方である。「ボケ」はなかなか評価が難しいが、その扱いで写真が与える感覚も確かに違ってくる。ライカレンズの設計者が「ボケ」に注目し、レンズの研磨工程などもボケに関係してくるとチラッと発言した点など、細かなことながらとても興味深い。こちらはCP+よりやや専門的ながらM型ライカの現在がリアルに伝わってくるカルベ氏のお話しぶりで貴重な体験でもあった。
かさねてのお知らせ。
さて、写真の内側・外側研究会では3月1日(土)午後7時より、大日方欣一さんの恒例の課外講座、異色の写真家列伝第9回「アルフレッド・スティーグリッツ再考−Dorothy Trueの肖像を中心に−」を四谷4丁目のギャラリークロスロードで開催いたします。
今回はアルフレッド・スティーグリッツとその時代がテーマになります。
1910年代のアメリカで新しい写真の波を作ったスティーグリッツのまた新しい側面を照らし出す大日方さんの講演会にぜひご参加ください。
詳しくはルーニィ247フォトグラフィーのホームページhttp://www.roonee.com/workshopをご覧ください。