ウチそと研通信140 −昨年12月の「リフレクション」写真展と今年1月の川田喜久治個展を観て−

あっという間に今年も2月半ばになってしまった。その間、いろいろな写真展があり、見に行こうとしながらついつい見逃してしまった写真展も多いが、昨年末の「リフレクション2015」展と今年1月に見た川田喜久治氏の個展「Last Things」について、ここで備忘的なことを書いておきたい。
原宿のギャラリーで展示が行われた「リフレクション」展は2013年から毎年一度、写真家の湊雅博氏のディレクションのもとに行われてきたグループ展だが、今回は阿部明子、榎本千賀子、田山湖雪、由良環の4氏による展示となっている。「リフレクション」展シリーズは一貫して風景というテーマで続けられている。毎年連続して見ているが、毎回質量とも充実している。展示期間中にギャラリーでトークイベントがあり、当日興味深く拝聴した。会場は立ち見の人も大勢いるという盛況で、4人の写真家の作業に対する関心の強さが窺われた。ギャラリートークの司会進行はウチそと研のメンバーでもある大日方欣一さんが担当、終始寛いだ雰囲気で行われていた。「リフレクション」展は参加メンバーが1年の間に定期的に集まり、お互いの作業を確認しあいながら、最終的な展示に収束されるというメソッドが特徴的なグループ展示だ。今回の写真の展示は作家個別に展示されるだけでなく、各氏の写真がパッチワークのように混ざり合ったスタイルでも展示が行われ、観覧するものは全体を見るとともに、謎解きをするような形で写真の群れを見てゆくことになる。というよりは私個人はそのように見てしまった。実はギャラリートークの前に会場展示を見ているのだが、ギャラリートークを体験した後では写真の見え方が微妙に変わり、それも面白いと感じられる。作家各氏の発言を聞いているため、ある意味で個々の作家側からの見え方に同調する見え方になったといっても良いだろう。大日方さんの指摘では、地誌的な捉え方、また川や水の存在をどこかで踏まえたものが4氏の作業に通底しているのではないかという見解が示されていた。地誌的な、あるいは地域的なものを踏まえた写真作業は、ここの所多数見られるが、これだけ数を増してくると、個人的には注意深く見続ける必要がありそうだとも感じる。ギャラリートークの終わりに湊さんが今回、すべて女性メンバーの展示ということに触れ、メンバー同士の影響のし合い方が男性の作家の場合と微妙に異なるのではないかという発言があり、とても印象に残った。
1月初めから東京タワー近くのPGIギヤラリーで始まった「Last Things」展は、地誌的な、また地域性から離れた写真の作業といえるだろう。初期のころから続いている川田さんの写真の流れに沿った展開といってもいい展示だった。今回の展示で目立つのは通路や駐輪場を覆う物だろう雨除けの枠付きの透明なプラスチック製天蓋を、下から天空からの透過光を光源に撮影しているシリーズだった。プラスチック板に付着する汚れや小物体、透けて見える空模様などが、光の状態や天候によってさまざまに意匠を変える姿をシンプルにとらえている。フレームに嵌められたプラスチック板を一つのスクリーンとすると、積み重なる汚れ、空模様が様相を変えるさまが幾重にも時空が重なりまた連続して眺められる。ありふれた具体的な「Things」が意味と姿を別に持つものとして見えてくる。このような瞬時に別世界のイメージとして抽象化される写真の引力に惹かれて見入ってしまった。幸運にも川田さんが在廊されていて少しお話を伺うこともできた。今回の撮影には新しいライカのアポ・ズミクロンM 50㎜F2を多用したとのこと。個人的にはもうひとつ、会場の隅のあたりに展示されていた、お店の中に置かれている不思議な衣装の女性小像をテーマにしたモノクローム作品がとても気になった。

「リフレクション2015」展
表参道画廊+MUSEE F 2015年12/8~12/19
「Last Things」
P.G.I.(フォトギャラリーインターナショナル)2016年1/8~3/5