ウチそと研通信139−赤瀬川さんの絵画鑑賞にはやはりどきりとする−

赤瀬川源平さんが亡くなってもう一年が経つ。昨年末に千葉と町田で開かれた展覧会が回顧展めいたものになってしまったが、とても咀嚼しきれない大きなかたまりを与えられたような気がしている。お目にかかると物静かで、軽いユーモアでいなされるのがいつもことであった。赤瀬川さん独特の声やゆっくりとした会話のテンポは忘れられない。
先日、赤瀬川さんが1996年に出した「日本にある世界の名画入門」という本を読んでみた。やはり面白い。登場するのはよく知られているヨーロッパの画家と作品だ。印象派とかフォビズムやキュビズムの作品で、ポピュラーな選び方がされている。ただ取り上げた作品に関しては篩の目が吟味されていて、少し通好みかもしれない。取り上げられていない画家についても、取り上げられた画家と作品の中で語られるので、それなりにかなり背景も幅広く近代から現代までの西欧絵画が語られる。この本の冒頭で述べられているように、作品を検索するのではなく、鑑賞することの楽しみが充溢した「入門書」である。作品の印象は常に何かに喩えられて語られるのだが、読んでいる私はその「たとえ方」と一緒になって絵を見直してゆく。赤瀬川さんの喩えのうまさはたぶんどの人からも認められていると思われるが、深刻ぶることもなく平明でかつ的確だ。目の前の問題(絵画)を抽象的にとらえるのではなく、具体的なものとの関係で飲み込んでしまうのだ。その手際の良さは方法という単純なものではなく、どこか本来的な認識の力から生まれ出ているようで、無駄な忖度をするより、ひたすら赤瀬川さんのテキストを楽しむというのが無難なようだ。
何度か赤瀬川さんと言葉を交わす機会を得ることがあったが、話のとらえ方はいつもあいまいではなく、具体的で答えやすい問いかけ、また話の間に何かを自問しているようなことを感じさせる人という印象がある。会話をしながら別なチャンネルが入っているなと思う人はいるけれど、別な意識を携えながら、柔らかく鋭い言葉で何かを削りだしているということを幾度か感じさせられた。この本を読みながら、赤瀬川さんのことを再び思い出した。

「日本にある世界の名画入門」赤瀬川源平著 光文社刊 カッパブックス