ウチそと通信153 −吉村朗のこと、いくつかの最近見た展示−

 少し前に吉村朗の写真集について大日方さんが書いている。吉村朗は私にとっても気になる人なのでここでほんの少し個人的な覚書を綴っておく。川崎市民ミュージアムでの展示は見ていないが、大日方さんが述べているように、ある時期から吉村朗の写真が大きく変化していったことは気づかされていた。その変化しつつある時期、展示してある彼の写真の前で、ある人がやや強い口調で吉村君の写真は理解できないと批評している現場に立ち会わせたことがある。吉村朗は黙って反発するような姿勢も見せず、スウェーするようにその言葉を聞いているようだった。その彼が以前のネガなどを廃棄していたというのは、彼が亡くなった後に聞かされたことだが、吉村朗の場合はどんな思いであったのかはわからない。しかし廃棄された初期の吉村朗の写真の面白さも改めて認識される機会があれば良いのではないかと思う。少数ながら印刷物として残されているものもあるので、再見できる吉村朗の写真があることを記憶しておきたい。
 年末年始はあまり展示を見る機会が少なかった。東京ステーションギャラリーでの追悼特別展「高倉健」。相変わらず動画の中で生きるものの展示は難しい。高倉健が出演した映画の抜粋をいくつかのモニターで上映、すべてを見ると2時間以上の時間がかかると案内されていたが、東映入社初期の映画はあまり見る機会がないので抜粋といえ有り難かった。展示会場入り口のホールに入ると円形のホール壁面に多数の方向からカラーの任侠映画がランダムに投影されて入場者の影が壁に映じ、また人に映じる。1960年代末のゴーゴークラブやライトショーを思い出させる。もうひとつ近美での瑛九展。フォトデッサンとコラージュなどと晩年の作品まで見られる展示で、青年時代の書簡類もガラスケースに収められ読むことができる。エルンストなどを観た感想なども読み取れる。桑原甲子雄も戦前、瑛九の展示を見てコラージュに感心したことを日記に記している。戦前の写真の世界の様子が、展示されている書簡などでもこちらに伝わってくるようだ。