ウチそと研通信10 −フレームのウチそと−

「ムットーニのからくり劇場」を見に世田谷文学館へ。
作者のムットーニ(武藤政彦)氏によれば、“立体のカラクリ箱であり、動き・光り・そして音楽などの要素が絡み合った、小さなストーリーボックス”(http://www.muttoni.net/about/index.html)である。10数年前、会社の同僚から話を聞いて芦花公園まで見に行ったのが最初で、その魅力を知ってからはときどき見に行っている。
この「カラクリ箱」はスーツケースほどの大きさの箱の中に、男や女、猫やうさぎ、アンドロイドなど、さまざまな登場人物たちと、その背景や小道具などが仕込まれていて、音楽やナレーションにあわせてひとつの物語を展開するというものである。以前は、「山月記」「猫町」「月世界探検記」の3つの話を見ることができたが、今は展示の都合で「漂流者」(「夢十夜」より)のみが上演されている。
見たことのない人は、メロディーにあわせてくるくると回るのオルゴールや観光地のカラクリ時計のようなもの、あるいは紙芝居や人形劇のようなものを想像するかもしれない。はじめて見たとき、それは私がそれまで知っていたどのメディアにも分類されないものであった。
その造形は素朴でノスタルジックでありながらけっして古臭くない。発条(ゼンマイ)やモーターによる回転運動を基本としたそのゆったりとした動きは、能や前衛舞踏を連想させる。必要最小限の登場人物や背景が時間軸に沿って、互いに呼応しながらひとつの物語、世界を表現している。短いショットが目まぐるしく変わってゆく昨今の映像を見慣れた目にはとても優しく感じられる。
小さな舞台劇のようにも見えるが、箱という一種のフレームの中で時間軸に沿って展開される様子はむしろ映像的である。スイッチを入れれば同じ物語を再現するという点も映画的だ。
脚本、演出、美術、音楽、制作のすべてをひとりで行なっているという点にも大きな魅力を感じる。