ウチそと研通信38 −フレームのウチそと3 交差点−

最近できた地下鉄駅の階段を上がってすぐ、通りの向こう側、交差点に面してそのバーはある。一見、看板がよく見えないのですぐには何の店だがわからないが、よく見ればガラス越しにカウンターとその奥の壁面を埋めるワインの瓶が見えるので酒場とわかる。以前、神楽坂に小さな店を出していた知り合いのマスターが、新しく店を出したというので土曜日の夕方ちょっとのぞいてみたのだ。
中に入るとL字のカウンターと椅子がいくつか置いてあるだけのシンプルなつくり。椅子に座って振り返ると、店の一角、壁面がL字型のガラスになっているため、店に接する交差点の様子がよく見える。ガラス面には、よくカフェにあるような帯状の目隠しがされていないので、道行く人の姿が頭から足元まですっかり見える。
近くには大学に高校、中学校もあるので学生が多い。ちょうど「新歓」の時期だったから、サークルのプラカードを持った先輩学生の後を、東京に出てきたばっかりといった風情の童顔の学生たちがぞろぞろと続いている。カウンター席から眺めていると時々、幾人かと目があってしまう。なんだか人間水族館。向こうから見ればこちらも水槽の中の酔っ払いだろうか。
名刹の庭でも、ヨーロッパのしゃれた町並みでもなく、ただの交差点の光景がこんなに面白いとは思わなかった。マスターの言うとおり暮れかかるとなお良い。ガラス一枚隔てただけで信号機の灯りまで美しく見えてしまうのだった。