ウチそと研通信69  − エコロ死ー −

宮崎学写真集「死」(Death in Nature)を買う。
神田古本まつりで「宮崎学」の文字が気になり手にとると、出版社の屋台のお姉さんに「いい写真集ですよ」とすすめられた。
中学生のころ「アニマ」誌上で見た真っ黒な闇を背景に浮かび上がるカモシカの写真に感動し、はじめて買った写真集が「けもの道」で、以来30年ぶりの2冊目になる。「けもの道」が黒バックなら、こちらは白バック。雪になかば埋もれたシカの姿がクリーニングしたばかりの化石のようだ。
宮沢賢治銀河鉄道の夜に出てくる、イタチから逃れて井戸に落ち、イタチに食われてやらなかったことを後悔するサソリの話を思い出した。死のイメージといえば、藤原新也「人間は犬に食われるほど自由だ」のガンジス河中州の写真、それから小野小町が骨になったゆく九相詩絵巻
においのない写真だからか、はい回る蛆の動きが見えないからか、はじめに考えていたより残酷な感じもしないし、グロテスクでもない。以前、写真美術館で見たサム・テイル=ウッドの絵画的な、腐ってゆくウサギとも違う。ことさら神妙になったり強調することもなく、死んだ動物が分解、解体されていくさまを淡々と見つめているのが良かった。カモシカやタヌキを近くから撮った写真よりも、表紙にもなっているシカの写真の距離がいいと思った。
タヌキやキツネ、ハクビシン、カケスやシジュウカラなど、森の生きものたちによってつぎつぎと再利用されてゆき、土に帰る間もない。われわれ人間は墓の心配をしたり、いつ死んだかを決めてもらったり、リサイクルも自分たちでやらなくてはならないのは面倒なことだと思うが、生きものはもともと、死んでもきれいに利用され少しも無駄にはならないのだと思うとちょっとほっとする。