ウチそと研通信108 − トークショー「建築写真の内と外」のこと −

7月26日に下北沢で行われた「建築写真の内と外」というトークショーに参加した。「建築と日常」誌の編集者である長島明夫さんの司会で、山田脩二さんと大日方欣一さんが多木浩二の建築の領域の仕事を語り合うという企画であった。山田さんの参加ということなので企画の思惑は普通の意味ではおおよそずれてしまうだろうことは予想していたが、期待は裏切られず久しぶりに聞く山田節を堪能させていただいた。たぶん企画した側も予想していた進行ぶりと思われる。以下はその時の簡単な、個人的な覚え書きである。
 大日方さんの多木浩二への言及では、多木が何度も引用したというロバート・フランクのパリで撮られた空き地の馬と子供達の画像から始まったが、その後の流れのなかで多木浩二が使った「まなざし」という言葉にあらためて注目しているのが興味深かった。多木浩二が「まなざし」という言葉に与えた意味合いは複雑なようだが、個人的にも示唆されることがありそうな気がしている。単純に言うと会の後半で上映された山田さん撮影の3・11の東北の画像などとも直接結びつきそうだが、さらにもっと幅広く奥行きのある意味を持っていそうな予感がしている。ちなみに山田さんの3・11の画像は、これまで見たさまざまな3・11の写真と、どうもどこかで違う感じられ方がしてならない。
 大日方さんの話に続いて山田さんと長島さんのやり取りになり、山田さんの酩酊風発言で進行が蛇行する。まず多木浩二の1960年代の雑誌に掲載されている建築写真の複写が投影されたが、多木浩二がいたってまじめに「建築写真」に取り組んでいるのを初めて知ってこれも興味深かった。次に山田さんのこれまでの写真、さらに近年の写真が山田さんの話とともに投影され、今回の催しのなかでも刺激的な時間であった。画面はこれまで印刷物で見たもの達と異なり、より鮮明で力強い写真であることに驚かされた。「まなざし」とも通じる俯瞰写真の迫力。また初期の渋谷の写真から現在の写真まで緊密な画面のあり方が変わらないことにも驚きを感じる。多木浩二を軸とするトークショーだったが、山田さんの写真を山田さんの言葉のもとでしっかり見ることができて充実した2時間だった。