ウチそと研通信115 −ハコのない博物館−

手元に正確な数値があるわけではないが、「美術館に行く」ということは、一般的に「企画展」あるいは「特別展」を観に行くということが多いだろう。博物館の場合は、常設展も観られるだろうが、科博の「深海展」のようにより多くの人を集めるのはやはり特別展だ。国立や県立クラスの博物館、美術館であれば、大きな企画展、特別展で人を集めることができるが、小さな市町村立の施設ではなかなか難しい。
そこでふと思ったのが、博物館、美術館から「展示」が消えたらどうなるだろうということだ。博物館、美術館には「資料収集」「整理保管」「調査研究」「教育普及」の4つの機能があるが、「展示」は最後の「教育普及」の中心的な機能だ。
「展示」を無くすとはどういうことか。まず展示室、展示ケースがいらない。展示施設は、資料を保護するために、光や空調など特別な配慮がなされている。維持管理は大変だし、事故や盗難も防がねばならない。どんなに注意を払っていても展示することは資料に負担をかけることになる。また人を呼ぶために、建物をつくる際、交通の便の良い立地も考えなくてはならないので地代もかかるだろう。
もし「展示」しなくて良いなら、展示物が痛むことはないし、展示を維持するためのもろもろの経費を削減することが可能だ。資料の収集と保存、研究に没頭できる。立地も資料の安全性(災害等)のみを考えれば、交通の便などあまり考えなくても良いだろう。
ただし、税金を投入して展示しないというのは、やはり批判されるであろうから、時々は公開する。その際は、既存の展示施設やギャラリー、空き教室などを利用すればよい。東大の「モバイルミュージアム」(http://www.um.u-tokyo.ac.jp/mobilemuseum/top.html)の例もある。
そんな話を先日「ウチそと研」の会合で話したところ、飯田さんは「正倉院式だね」と言った。新国立美術館のようにコレクションのない美術館も存在するのだから、展示のない博物館、美術館があってもよいのではないか。