ウチそと研通信131ー「九州三県境」展を見にいくー

 九州に移って二週間ほどが経過、福岡市内の地下鉄路線はほぼ一巡してみたが、バスを乗りこなすまでにはまだ時間がかかりそうだ。久々の一人暮らし、鯖または鶏の料理を求めつい食費がかさみがちで、そろそろ軌道修正を心がけなくてはいけない。駅や地下街などのパブリックスペースのサウンドスケープが、東京などとはだいぶ違うなと感じる。賑やかなのに騒々しくない。たとえば上野や新宿駅の雑踏の中で、環境音に対抗しようとしてなのか脳裏に「ミナのセカンドテーマ」(山下洋輔トリオ初期のナンバー)が自動発生することがよくあるのだが、天神地下街博多駅を歩きながら心のうちに再生しだすのは、なぜかこのところシドニー・ベシェサッチモであったりして、ニューオリンズに引っ越してきたみたいだまるで。
 大学の担当ゼミ学生であるYくん、Kさんに案内をたのみ、中央区薬院のIAF SHOPというスペースで開催中の写真展へ出かけた。写真同人誌九州(松岡美紀、内田芳信、尾崎雄弥)の第2号刊行記念展「九州三県境」(4月26日まで)。
 「ここ九州に生まれ、九州で育ち、そして九州で暮らしている私たちが九州から写真を発信すると言う事に大きな意味があるのではないか」との表明のもと、昨年9月刊の写真同人誌九州第1号では、三人のメンバー各々の作品を分冊のかたちでセットにした本づくりがおこなわれたが、このたびの2号ではまた違う試みを展開している。一冊のうちにメンバー各々の撮影ショットが混ざり合い、この頁の画像は誰が撮ったものかを表す文字情報をとくに掲載せず、半ば匿名に近いさまで写真がさし出されているのだ。(巻末の撮影地データに照らせば各図版の撮影者を推測しうるようにはなっているが。)
 「三県境」とは文字通り、3つの県が境を接した地理上のエリアを指し、そのような場所が九州には3つあるという。メンバーがその三箇所へ分れて赴き、撮りおろしたショット群から構成される2号目は、これまで三者三様に土地巡りのまなざしを養ってきた彼らが、接しあい貫入しあうことで互いのセンサーのありようを照らし、磨きあう企てでもあったにちがいない。資質的に近しいものを持っているようにもうかがえる三人が、共通のプロジェクトに取り掛かり、こうして一冊が組みあがる中で各々のゆずれない本領を露わにしだす−−展示を観て、その過程に立ち会うかの思いに捉えられた。
 熊本、宮崎、鹿児島の境に向かった尾崎雄弥さんの写真は、ただ一人モノクロームということもあるが、撮影時の足もと(立ち位置)の置き方にある頑固な特徴が感じられる。平たい底面に立つ。小高い崖の上だとか、山沿いの道端であろうとも、カメラ=身体を傾斜面の途中、不安定な勾配の上に置くことはあまりなく、水平に横広がりした地べたに立ってまなざしを構えるのを常としているようだ。眼前の事象とのあいだにとる距離感覚が比較的揺らがず一定しているのが、三人の中で尾崎さんだという印象を受ける。とともに、尾崎さんの捉える寡黙な風景の中に紛れて、陸にあがった小舟、あるいはそれに類する放置された小さな乗り物たち(観覧車のゴンドラ、ブランコも含めて)のイメージがじんわり見え隠れするのも、何だろうこれ、特徴的なことと云えるかもしれない。
 いっぽう内田芳信さんは福岡、大分、熊本の、そして松岡美紀さんは大分、熊本、宮崎の県境へ向かった。いずれもカラー、当初漫然と眺めだした際はおふたりの写真を判別しようという気もおこらないほど、相似るまなざしに思えたのだったが、しばらくするうち、そうでもないと気付かされた。どう見えてきたかというと…続きはまた後ほど。
  

写真同人誌九州Ⅱ 刊行記念写真展
「九州三県境」

IAF SHOP
福岡市中央区薬院3-7-19-2F

2015.4.9〜26
月、火、水休み
木・金 18:00〜23:00
土・日 13:00〜21:00