ウチそと研通信138−地中の寶(たから)−

「まち歩き」という言葉が一般に聞かれるようになりましたが、テレビや雑誌などでは食べ歩きや買い物が中心で、その土地の歴史や文化、成り立ちについて触れる記事や番組は少ないようです。
地方の博物館などで入口近くのコーナーにはよく、地形模型や航空写真などが設置されています。これは、その市町村の範囲や、地形地質について紹介し、その地域がどのようにしてできたのか、またどのような自然条件のもとで、人の歴史や文化が育まれてきたのかをまず知ってもらうためです。タモリほどの知識のない人(わたしも含めて)に、その土地の地形や地質、それに自然と、そこにくらす人々との関係をじょうずに語るのは骨の折れることです。まして小学生などの子どもたちにわかるように話して聞かせるにはどのような語り方が必要なのでしょう。
この『地中の寶』という本は昭和3年の発行、「日本児童文庫」の第48巻で、著者は「渡邊萬次郎」(ウィキペディアによれば、戦後、秋田大学学長を務めた学者)、出版社は「アルス(ARS)」(住所は小石川とある。ウィキペディアによれば、「カメラ」という雑誌を出していたらしい。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B9_(%E5%87%BA%E7%89%88%E7%A4%BE))、印刷は同じく小石川の共同印刷。装幀は版画家の「恩地孝四郎」、口絵は「赤い鳥」の挿絵を描いていた「鈴木淳」、挿畫はやはり少年少女雑誌の口絵や挿絵を描いていた「岡落葉」とあり、中々かわいらしい本です。
その内容は、少年と父親が旅行をしながらその土地の地形や地質を見て、地下資源やその利用について語り合うというものです。今の子どもにくらべれば主人公の「良雄さん」はとても礼儀正しく少々ものわかりが良すぎるように思えますが、二人の会話はわかりやすく、博物館の展示企画や解説計画を考えるときに役立ちそうです。